漫画家・赤星たみこの日記です。 

by akaboshi_tamiko

サントスとウィルベル、13年後の軌跡

昨夜遅くに見たドキュメンタリーは、衝撃的だった。

13年前に、ペルーの山奥(4000m級の高地)に住んでいる二人の少年のドキュメンタリーがまずあって、今年またその二人に会いに行き、その後の人生を取材したもの。

13年前、まだ10代の少年だったサントスとウィルベル。二人とも瓦焼きの仕事をしていた。
現在、サントスは29歳になっていて、元の地域に住んでいて、元の通り、親と一緒に瓦を焼く仕事をしていた。

弟や妹たちも一緒に仕事をしているけれど、一つ大きな違いは、小さい兄弟を学校に行かせていて、仕事は学校の合間にさせていること。
サントスが小さいころはほとんどフルタイムで働いていたのだけど。

今、彼は兄弟をちゃんと昼間の学校に通わせ、自分は夜学に通っている。まだ中学を卒業出来ていないけれど、親を保証人にして借金もして、瓦を焼く機械を導入しようと、今懸命にがんばっている。

ウィルベルは今、砂金堀の仕事をしにアマゾン川の流域に行っている。
97年に村を出た、ということだから、最初の取材の一年後くらいにアマゾンへ行ったのだろう。以来、サントスは彼と会っていない。
日本のテレビクルーは、サントスと一緒にウィルベルを探しに出る。

ラジオ局に尋ね人の放送を依頼したり、いろいろ訪ねまわってようやく見つけたウィルベルは、結婚して子どももいたけれど、アルコール依存症になり、病気になっていた。

幼なじみのサントスと会って嬉しそうなウィルベル。
子どもの頃の話をして、涙をこぼしていた。13年の間にどんな生活をしてきたのか、健康そうなサントスと、やつれたウィルベルの顔。

テレビクルーの人に「会いにきて迷惑だった?」と聞かれると、「そんなこと無いよ、嬉しいよ、13年前に、俺を大統領の息子みたいに撮影してくれて、嬉しかった」と笑顔で答えるウィルベル。

砂金堀の仕事では、無免許でトラックを運転してお金を稼いでいるとのことだった。運転の仕事以外では、泥水にもぐって砂金を掘るきつい仕事がある。その泥水には、金を抽出するときに使う水銀が垂れ流しされていて、病気になる人が多いのだそうだ。

そして、中学を卒業していない彼には正式な運転免許がもてない。だから安い賃金でしか働けない。

中学を出ていればこんなことにならなかったと嘆くウィルベルに、サントスは、村に帰って一緒に勉強して中学を出よう、村で一緒に仕事をして健康を取り戻そう、と誘う。

29歳のサントスは、今もまだ中学の夜学に通っている。もっと年上のオバサンだって来ているから大丈夫だ、と27歳のウィルベルを激励するのだ。

結局、ウィルベルは妻と10ヶ月の子どもを連れて、サントスと一緒に村へ帰る。
村では13年前に覚えた瓦作りの作業を、「出来るかな」と恐る恐るだったけれど再開してみると、ちゃんと上手に出来るのだった。

ああ、ここでウィルベルは仕事をし、健康になっていくのだろうなぁ…と、ほのぼのとした気持ちで見ていたら…。


この後の現実が、これがもしシナリオとして読むのだったら「こんな手垢にまみれた話書くんじゃねえ!!」と怒りそうなくらい、「つらい現実」を絵に描いたような事件が起きる。

ウィルベルの子どもがトラックに轢かれて亡くなったのだ…。

彼は妻を連れてまたアマゾンへ戻っていった……

というナレーションでこのドキュメンタリーは終った。

アマゾン川の砂金を掘るあたりでは、酒、ばくち、女、といろんな誘惑が多い。そこへまた戻って、ウィルベルはどうなっていくのだろう。
ウィルベルの妻も、ここへ戻ってこなければ子どもは死ななかったのに、なんて思っているかもしれない。トラックに轢かれるなんて、そんな交通量も無いところで…。

ずっとこの話を考えていると、気持ちが重く沈んでしまう。

あんまり沈むので、パレアナ方式で「日本の幸せ」というものを考えるしかない。学校へ行ける幸せ、ある程度の機会がある程度均等に与えられている幸せ…。「彼らに比べると私たちは幸せなのだ」と思って乗り越えるしかないほど、暗い話だった。
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by akaboshi_tamiko | 2009-05-13 13:22 | 読んだ観た聴いた | Trackback | Comments(8)
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Commented by kuunuu at 2009-05-13 22:53
その砂金がケータイの部品として使われ、機種交換で捨てられたケータイの部品の金が、「日本の金鉱」として注目されていたりするわけだよね。金はアクセサリーのほか工業製品の材料として需要が多いんだよね。貧しい、教育が受けられない、生活が向上する途がない、というスパイラルはなんとかならないか。教育がなくても幸せになれるというパターンはメルヘンでしかない時代です。
Commented by グレコ at 2009-05-13 22:59 x
私もこの番組を深夜に観ていました。
まさかの結末に、暫くテレビの前で呆然としていました。
それくらい衝撃でした。
最後のサントスとウィルベルが笑っている2ショット写真がより一層辛く感じました。

ドキュメンタリー番組というのは、私達の知らないような現実を伝えてくれる貴重な番組であり、それを観ることによって感じた何かをしっかりと受け止める必要があります。
しかし、世の中の流れるスピードが速いせいで、その感じたものを忘れてしまいがちです。
今回この番組を観て、私は絶対に忘れてはいけないと思いました。
風化させてはいけないと思いました。
偶然にも深夜観ることができて本当によかったと今感じています。
Commented by akaboshi_tamiko at 2009-05-14 00:41
★kuunuuさん
義務教育制度をしっかり根付かせた明治政府は偉かったね。
その恩恵を忘れている人も居るんじゃないかと思う今日この頃。
貧困の負のスパイラルを断ち切るためには、やっぱり教育なんだろうけれど、それが受けられない悲しさ。悲しい話でした。
Commented by akaboshi_tamiko at 2009-05-14 00:43
★グレコさん
本当に、見終わった後の衝撃は、筆舌に尽くしがたいものがありました。
本当に呆然としてしまって…。
最後の写真も悲しかったですね。

いろんなことを考えさせられる番組で、見終わった後は辛かったけれど、見てよかったと思います。
Commented by 通りすがりの者です at 2009-07-04 13:08 x
はじめまして。先ほどBSやっていた放送をたまたま見て、衝撃の終わり方に愕然として、ウィルベルと検索したところこのブログにたどり着いた者です。「なんだよ、これ。こんなつらい話見せんなよ」とテレビに怒りを感じつつも、世界の知らないところではこういった現実が今も起きているんだよな、と思ったら真っ昼間からやりきれない気持ちになりました。
しかし、あまりに悲しすぎる話です・・。
Commented by akaboshi_tamiko at 2009-07-09 02:23
★通りすがりの者ですさん
本当に、あまりにも悲しすぎる話で、愕然としました。
でも、忘れてはならないことですよね。気持ちがふさぐ話でしたが、語り継ぐべきことだと思います。私達は今の日本の暮らしにもっと感謝していいですよね。改善すべき点もたくさんあるけれど、感謝して守るべきところもある、ということに気づかせてくれたと思います。
Commented by よーすけ at 2009-10-10 00:10 x
先ほど、NHKでやってました。最後のナレーションに耳を疑い、すぐに「ウィルベル」で検索し、ここにたどり着きました。
やはり、真実だったのですね。辛すぎる、やっと立ち直るきっかけをつかんだかに見えたのに、故郷がただ辛いものに、親友が自分をつれてこなければこんなことにはならなかったという思いかあら、サントスが親友でなくなるかもしれない。最後の写真、辛すぎて、涙が出ました。ウィルベルの子供の冥福をお祈りするとともに、ウィルベルとその妻の今後の健康と幸せを願わずにはいられません。
Commented by akaboshi_tamiko at 2009-10-13 08:47
★よーすけさん
本当につらい話でしたね。私も彼らの幸せを願わずにはいられません。特に健康面。健康でありさえすれば、少なくとも、少しずつでも上向きになれると思うのですが、それすらも危うい状況に、胸が痛みます。かといって、何が出来るわけでもない自分の無力さ。

語り継いで、忘れないでいることしか出来ませんが、それだけでも、何もしないよりはマシかもしれないと、自分を励ましています。