2016年 01月 17日
千葉美・初期浮世絵展 筆ネイティブ


この日は川村記念美術館のと国立歴史民俗博物館にもいくという、弾丸ツアーの日。
一日に3つの展覧会を見て、どれもこれも筆の線が変幻自在でカッコイイなあ、と感じました。
上のポスターの絵もそうだけど、太い線、細い線、勢いのある線、柔らかな線、固い線、丸みのある線、どんな線も自在に描いているのが浮世絵や日本画の人たち。
あんまり筆の線がカッコイイので、ちょっと真似してみました。
千葉美で見た中に、確か着物姿の男が寝っ転がっている絵があったので、記憶で描いてみたら・・・

うーむ......。
やはり筆ネイティブの人の線とはまったく違います。
あ、筆ネイティブとは、生まれて初めて持った筆記具が筆だった人、子供の頃から筆で線を引く、文字を書く、絵を描く、という訓練(というか、そういう生活)をした人のこと。
と、美術史家の山下裕二さんの本で読みました。
そりゃ、江戸時代から幕末の絵師は全員、筆ネイティブですよね。
それから、この時代の人たちは、着物ネイティブでもあります。
着物ネイティブとは、今、私が思いつきで作った言葉ですが、着物しか知らない時代の人のこと。
着物ネイティブの人が描く着物姿は、袖や襟のたるみ具合、裾の開き具合、模様のつき方などが、正確。着物しかないから普通に描くだけで正確になってしまう。
今は、洋服の感覚があるから、例えば縞模様を描く時、うっかり洋服と同じように縞を入れて、あわてて消す、なんてこともあります。

着物の縦縞は、着物を広げて見たとき、袖の縞は垂直(縦)になっています。
洋服の場合は、縦縞の服でも袖の縞は水平(横)になっています。
着た姿を描くと、洋服は袖も身頃も縦。でも、着物の場合は袖の縞は縦にはならない。
横縞もまたちょっと難しい。

広げてあるところは袖も身頃も水平の縞だけど、着た姿だと袖の縞が垂直に落ちるし、肩とのつながりとか、結構難しいです。
そういうのが、浮世絵や日本画を見ると、軽々と、何のためらいもなく、自然に模様が描いてあって、昔の人は本当に着物ネイティブだなあ、と思います。
そうだ、筆ネイティブに話を戻すと、山下先生の本によると、筆ネイティブ最後の世代が鏑木清方と上村松園であり、鏑木清方が1972年に亡くなってから、日本では筆ネイティブは絶滅した。そして、今、ほとんど筆だけで原稿を描いている漫画家の井上雄彦さんが、筆ネイティブの領域に近づいている、とのこと。
うーん…。
何万本、いや、何千万本、数億本の線を引けばあの領域に近づくことができるのか。
今回、ちょっと張り切って筆で描いてみたけど…。どんだけがんばれば近づけるのか…
最初からあきらめちゃダメだから、毎日、筆を使って何か描いてみようかな…。
美術館に行くと、やっぱり絵を描くことを頑張ろう、という意識が出てきます。
それはとても楽しくて嬉しいことです。ときどき、あまりの道の遠さに、あきらめの気持ちもわいてくるけど、ま、将来、何かキレイな線できれいな絵を描いてみたいな、と夢だけは大きく持つことにしよう、と思います…。