お連れ様のぶんはいかがいたしますか?
遺骨は陶器の壺に入れられ、その壺は白い箱に収めてある。ずっしりと重い白い箱を汚さないよう風呂敷に包み、さらに大きなバッグに入れて羽田空港へ向かった。
私と夫の飛行機の席は、急きょ取ったので離れている。重い箱なので夫が持ち、機内に持ち込むことにしたが、どこにどうやって置くかが問題だった。座席の下には入らない大きさだし、割れ物、壊れ物の部類なので頭上の荷物入れには入れにくい。夫は遺骨の入ったバッグをもってJALのカウンターへ相談に行った。
以下、夫が体験したJALの対応のすばらしさ。
夫がバッグを見せて、これを機内持ち込みにしたいのですがと頼むと、中身を聞かれた。
「母なんです」と答えると、カウンターの係りの人が頭を深々と下げたという。そして、夫の席の隣がたまたま空席で、最後までお客様がこなけれれば、そこを使ってください、離陸の時は足元に置いて、上空に行ったら隣の座席に置いて、シートベルトをかけてください、と言ってもらえたとのこと。
夫が自分の席に行き、言われた通り離陸の時は遺骨の入ったバッグを足元に置いた。上空では隣の席に移しシートベルトで固定していると、飲み物のサービスが始まった。
CAの方が夫に「お飲み物は何にいたしますか?」と声をかけたあと、隣の席の母(の遺骨)を向いて、「お連れ様の分はいかがいたしますか?」と聞いてくれたのだそうだ。
遺骨は私たち家族にとっては「肉親」そのものだけど、赤の他人にとってはどうなんだろう。単なる物質、だと思うだけならまだしも、縁起が悪いと言って嫌う人もいるかもしれない。それを、最初からずっと「人」のように対応してくれたと、夫は涙ぐみながらこのことを話してくれた。
本当は、義母は飛行機に乗るといつもコーヒーを頼んでいたので、コーヒーをもらえばよかったとあとで言っていたが、夫は心遣いに感動して、「けっこうです…」としか言えなかったらしい。
その場にいない人や亡くなった人の席に飲み物や食べ物を置く「陰膳」という風習がある。宗教的な意味合いはないらしいけれど、いない人、亡くなった人を偲んで同じ食べ物を置くのは、私の世代だとなんとなくなじみのある行為だ。供えた食べ物は周りの人があとでありがたくいただくのがルール。
私の席が隣だったら、義母が好きだったコーヒーを頼み、そのあと私が飲んだのになあ…。(夫はコーヒーを飲まないので)
飛行機が旭川空港へ到着したとき、私は先に飛行機を降りた。ちょっと待っていると夫が目を潤ませて出てきた。
降りるときも、乗務員一同がみんな深々とお辞儀をして見送りをしてくれたのだそうだ。
生きているお客様を大切にするのはもちろんのこと、亡くなった方への敬意をこんなにもしっかりと表してくれることに、夫も私も感動した。
遺骨に飲み物なんて、やりすぎ、という人もいるかもしれない。でも、やっぱりそういうことをやっていただくと、遺族はとても嬉しい。「人」と同じように対応してもらえて、本当にありがたかった。
JAL、まさに日本流のおもてなしだったと思う。
2016年11月17日、JAL羽田→旭川便の地上スタッフの皆さま、客室乗務員の皆さま本当にありがとうございました。
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お義母さん 天国でも幸せでしょうね(^^)