今日は内科の定期検診日だった。採血のとき、なかなか血液が出なくて、若い看護師ヤマダ(仮名)さんが、3カ所も針を刺したけど出てこない。
いつもは採血の前に必ず水分補給しているのに、今日はうっかり忘れていたのだ。
1回目、2回目とも、針を刺したあとシリンジの押し子を引いても全く出てこない。
3回目には「少し深く刺しますね。痛くないですか?」とヤマダ(仮)さんは私をいたわりながら針を刺した。しかし、ほんとうにごく微量の血液しか出てこない。彼女の顔は緊張でこわばっている。
「大丈夫、これは脱水気味だからじゃないかなあ?ちょっと水飲んだほうがいいと思うから、買ってきます」と言うと、彼女は恐縮しながら針を抜いた。
私は速足で院内のコンビニへ。動くと血流がよくなるし、それもこの後の採血にいいかもしれない。
経口補水液のOS1を買ってぐびぐび飲みながら採血室へ戻ると、ヤマダ(仮)さんは先輩格の看護師さんと奥の部屋で何やら相談中。
先輩格の看護師さんのネームプレートにはイトウ(仮)とある。彼は自信に満ちた表情で私に振り向き、「なるほどなるほど、ではこちらにどうぞ」と採血台へ誘導する。彼の後ろでヤマダ(仮)さんは小柄な体をさらに小さくして私の腕を見ていた。
私の腕にはすでに3か所、止血の絆創膏が貼ってある(右2カ所、左1カ所)。しかし、止血の必要がないくらい、採血痕から血は全く滲んではいなかった。
「なるほどなるほど、うん、なるほどなるほど」イトウ(仮)さんは私の腕を見て嬉しそうに笑みを浮かべた。難しい採血をやって見せる、ちゃんと見ていなさい、という先輩の自負が見える。
彼は採血針を袋から出して「これを使うから」と、後輩に教えている。
イトウ(仮)さんが私の腕を取り、血管をピンピン叩きながらまた「なるほどなるほど」と微笑む。
ゴムチューブを肘の上でぎゅっと縛る。「少し強く縛りますよ」「はい」(…おお、確かにヤマダ(仮)さんのより強めだ)
採血針が腕に刺さる。シリンジの押子を引くと血液がスーッと出てきた。
よかった~~~~!
「やっぱり水飲むと全然違いますねー、さっきはドロドロだったのかな」などと言って、ヤマダ(仮)さんに気を遣う私。
採血技術の差ではなく、私の血液がどろどろで出にくかったんですよ、あなたのせいではないですよ、なんて、若手看護師さんにちょっと気を遣うのは、アメリカの医療ドラマERを見ていたせいだ。
ERで「ティーチングホスピタル」という言葉を初めて知った。患者さんとともに看護師や研修医がいろんな手技を覚えていくのだ。患者もそれを納得している。
私ががんの手術で入院していたのも医大に併設された大学病院だったので、若い看護師さんがベテランさんに教えられながら採血してくれた。あの時も5回くらいやり直しがあって、その時は若い看護師さんは泣きそうな顔になっていたなぁ…。
私も痛かったけど、これは病室でネタになる!と思っていた。病室では「痛い自慢」「やり直し回数の多い自慢」が結構受けるネタだったのだ。
話題の少ない単調な入院生活では、そんなことも笑いの種になったんだなあ、と、少し懐かしく思い出した。